「自分史 母国・祖国」

 著者 吉泉 恒徳

 

 

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 昭和初期、北満の大陸を転々と移住した一人の日本人少年の目は、満人・露人との暖かい心の交流や、日本軍人に対する明暗を、純真な感受性で的確にとらえ、その緻密や記憶力を生かした描写が克明に活かされた点に、まず驚かされる。
 その少年が帰国した内地の自然や風土、尋常ならぬ生活は、繊細にして鋭敏・感動的な心情の特ち主に育て上げた。
 その詩情を、短歌・俳句の創作に今日まで75年間継続、まさに継続は力なりである。
著者は12月に87歳を迎える。この本は原稿用紙700枚A5判306頁に及ぶ大作である。手書き原稿を4校することさえ厭わない集中力に感服する。正に活字人間である。筆者の長い教職生活のスタートから16年間、各学校で担任した生徒全員のエピソードが添えられているがその記憶力は驚異的である。戦後復興から高度経済成長に突っ走る時代の学校生活が活写されている。こんなに教育熱心な先生に教わった子どもたちは幸せである。氏はすでに自分史下巻の上梓に意欲を示しておられる。成就する日が心待ちされる。

 

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