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暮らしと方言の色揚げ内山一兄・郷田敏男 |
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十五夜の月の出は早いのですが、
満月から十六夜と晦に向かって一夜毎に月は細り、
顔を出すのが遅くなります。
月の出の時刻によって、立待ち・居待ち・寝待ち・臥し待ちの月などと呼んでいます。
月の出を待って拝む素朴な信仰は、十九夜待ち・廿六夜待ちなどがありますが、
農村では廿三夜待ちが最も多いのです。
五、六人の老女が集まって、三夜待ちをしています。
「三夜サンナ 年ニ 三遍アリョッタノヤ」
「ソータノ。五月ト九月ァ マー ヨカバッテ 今夜ハ 寒カサカッジャロガ・・・」。
一月二十三日の夜更け、利鎌の光を見せる下弦の月の出を待つこの行事を「三夜待ち」と呼んでいます。
戸口を開け放ったお縁に、台に載せたおすわり・饅頭・干し菓子などを供えて待つのです。
おすわりは一二個(閏年は一三)、
それに季節にちなんで一月は梅の花、
五月は篠の葉、九月には菊の花を添えます。
霜夜で寒がひどく、障子を隔てた座敷では箱火鉢を囲んで老女のお茶飲み話が弾むのです。
「居眠りはしたっちゃ、横寝はすんな」と、
厳しい掟まで付いています。
「三夜サンナ 目ノ神サンゲナケ 拝ムト 目ノヨーナルゲナタイ」。
三夜待ちの話はみんなうろ覚えで継ぎ穂が見いだせないのです。
建て付けの悪い戸・障子の透き間から、しんしんと外の寒さが忍び込んできます。
何回も消し炭を継ぎ足し、
火種のひーけぎ(火埋木、埋め火に使用する火のついている薪)まであせり(かきひろげる)出す始末です。
欠伸をこらえて、遅い月の出を待ちます。
眠気覚ましによその家の内(家の内部事情)や
人の噂話になると、月の出も忘れて止めどがありません。
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