暮らしと方言の色揚げ

内山一兄・郷田敏男

 
 
 
 
 
 
 

明月つぁん


旧暦八月(葉月)も半ばになると、

秋気ようやく動き朝夕はうす冷えを覚え、

ひと雨ごとにかんえがよくなります。

日中はまだ暑気が強いのですが陽が沈むと急に冷えこみ、

草むらにすだく虫の声が澄んで聞こえます。

野良仕事に寧日がない農家も、

この時季はいささかゆとりが出来るものです。


八月の望(もち)、十五夜を芋明月と呼びます。

天体は、太古の人たちにとっては畏敬と信仰の対象でした。

とくに月に関する物語や言い伝えは数多いのです。

月食にまつわる竜の話、月の中の兎の餅搗きなど、

子供が老婆から聞く物語は恐ろしくもありまた幻想的でもありました。

そよ風が稲穂をなびかせ、

秋気満天に溢れる十五夜の明月を愛でる心は、

今も変わりはないものです。

秋の夜長、近辺の老人は誘い合って一軒の家に寄り集まり、

月を愛で四方山話をして楽しむのです。


「明日ツァンナ チョード 二百二十日ン後先ジャッタモンノヤ」

「ソーコタ。コノ日バ切ン抜クット ソノ年ャ 満作チョーッタタイ」。

 

   

八女方言歳時記へ戻る

 

次項→



ページの上段へ PAGE UP