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暮らしと方言の色揚げ内山一兄・郷田敏男 |
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さなぼりと言ってもすでに実感が伴いません。
しとしとと小雨が降り続くときのよけもあれば、
かっと日ざしが強いときのよけになることもあります。
邑を挙げてのよけですからもえ風呂も昼には沸き、
お互いにこざっぱりした容姿でくつろぐのです。
縁者・付き合いで寄り合ってだりやみを思い立つところもあるし、
友だち同士で骨休めの一杯もあります。
娘たちもめかしていそいそとひかり(女の友だち寄り)に出かけます。
すべてが天下御免の楽しみです。
さなぼりの意は通念的には「田植えよけ」のことですが、
その由来についてはいろいろの説があるのです。
「早苗上り」「早苗抛り」「早苗振り」などは、
字義のとおりで理にかなっているように見えます。
ですが、氏俗学者故柳田国男氏は、次のように述べています。
「サノボリのサは田の神のことで、
田植えを始める時にお降りになった神が田植えも滞りなく終わって、
再びお昇りになるのを祀るのである」
「これと逆に、田植えの前に田の神がお降りになる祀りをサオリ或はザビラキと言う。
サオリの祀りはサノボリより大分範囲が狭いが、なお各地に残っている。
関東の一部ではサオリがソーリと訛って田植え始めの祀りをする。
早苗の幾株かを植えて、これに御神酒を注ぎ、
塩やいりこを撒いて田植え始めの儀式をする」と、
五風十雨の時宜を得たおしめりを願望する農民の祈りであろうと考えます。
天神地祇に農穣を願う農民の心情にはすでに触れておきました。
これからしても、この説が最も信憑性があると思われます。
話が大分堅苦しくなりましたので、
話題をさなぼりの楽しみにもどそうと思います。