暮らしと方言の色揚げ

内山一兄・郷田敏男

 
 
 
 
 
 
 

とーきんだご


旧暦十一月(霜月)も下旬ともなると、

厳しい冬が足速に近づいてきます。

農家は、忙しかった麦播きが粗方片付いてほっとします。

蕭条とした冬景色はそれなりに風情はあるものの、

老人はさすがに寒さには応えます。

爺さんは箱火鉢に寄りかかって、先ほどからキセル掃除に余念がありません。


十一月十八日には「とーきんだご」がやってきます。

二十日だと言う人もあって、期日は定かではありません。

聞き慣れない行事です。矢部川沿いの紙漉き百姓わら(集落)の、

ある限られた地域だけに催されていた行事なのです。


遠い昔、そう、豊臣秀吉が全国平定を成し遂げたころのことです。

越前の僧日源は、全国行脚の旅で筑後国溝口村に足を留めました。

矢部川の清流に目を付けた日源は、故国の紙漉きの手法を伝えたのです。

その後江戸時代三百年間に、

溝口から唐尾・柳瀬・津江・柳島・北田形と川沿いの部落に広がって、

最盛期には紙漉き二千軒と言われるほどの隆盛を極めました。


「ソゲンデスタノ。昔ャ 家毎ニ 紙漉キ バカッデシタタイノー」

「紙モ 傘紙 障子紙 提灯紙 膏薬紙 京華紙テロン・・・」

「ソレニアータ 戦争ン シマエゴロハ 気球紙作リ ソーニャ ハリコミョーリマシタ」

   

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