暮らしと方言の色揚げ

内山一兄・郷田敏男

 
 
 
 
 
 
 

麦播きのころ3


農家で飼っていた馬のことについて、今少し触れておきましょう。

それは、格好がよく駿足ではありませんが、すこぶるおとなしく持久力があるのです。

駿馬でなくて「駄馬」であると言えましょう。

駄腹・駄桶・駄賃・駄法螺・駄目・無駄など、駄が付く言葉にはあまりいいイメージはありません。


畑や田植え前の田鋤きは割合簡単です。

土が柔らかくて、畝を切り崩して地均しをするだけでいい。

麦播き前の田鋤きが厄介です。


「コンノアガンノ 田ン中鋤キガ 骨ジャンナイ」

「ソーコタ。霜ン朝ダン 太カ塊ン ナカナカ割レンモン」

「麦播エテ 畝カラミマデ ナソデツァ ヤオナカッタナヤ」。


鋤の先から粘ば土が、螺旋状にくるくる反っていきます。

踏み固めて、株が残っている水田を鋤くには、

「一馬力デナシ 二馬力グレ出サニャ 深ウハ 鋤カレンタイ」と、頓智も出ます。

めったに汗をかかない馬でも首筋から横腹あたりにうっすらと汗をかき、

霜の朝など「八の字」の白い息を吐いて息づかいも荒いのです。

もちろん、田鋤きの前になると馬ん食みもきばります。

日ごろは畦草を主にさくずか麦粕を混ぜるくらいですが、

骨折るときには裸麦を炊いて混ぜたりきらず(おから)を混ぜてやったりして精を付けるのです。

 

   

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