暮らしと方言の色揚げ

内山一兄・郷田敏男

 
 
 
 
 
 
 

八朔さん3


春秋に富む若者は、過去を振り向かないものです。

遼遠な将来を見つめて、夢に生きます。

語りたい夢を温めているのです。

老い先が短くなれば、とかく過去を振り向きたくなるものです。

夢が乏しいのです。

回顧に生きて、語りたい過去を温めているのです。


松つぁん・鶴さんは、水を得た魚のように子供のころの八朔さんの楽しみ話が堰を切るのです。


「モ− 二十五、六日ニナット 舞台掛ケン 始マリョ−ッタナイヤ」

「ソ−タイ。舞台掛ケドンノ 早ヨ来テ製材所カラ

馬車何台デン ナル(道木に使う杉の丸太)バ借ッテキテナイ・・・」

「ハダシ足袋ノ トビ職ン人ン ツルツル上ッテ 掛ケテイカスモン」。


サ−カスの舞台小屋をたかぶて(高舞台)と言います。

高舞台をはじめ、活動・芝屋・遠目鏡・化け物屋敷・

動物・てづま(奇術)・からくりなど、五つ六つも小屋が掛かります。

開幕前から前評判がかしがましいのです。


露店も続々繰り込んできます。

無数の露店を参道筋と一段下の川ン河原の通路の両側に縄を張って、

統領が適当に区分けをしていきます。

ここからはみ出した臨時の店は、往還筋の個人の剣先を借りて戸板を並べて店を開くのです。

坪の広い家には、にわか造りの「自転車預かり所」の立て札まで立ったものです。


前日の夕刻には、完全に準備が整います。

さしも広い川ん河原も、通路をはさんで舞台小屋と露店で埋まってしまいます。

 

   

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