暮らしと方言の色揚げ

内山一兄・郷田敏男

 
 
 
 
 
 
 

香ばし権現さん


二月も半ばともなれば、新暦ではすでに三月の初旬でしょうか。

菜の花畑の黄を薄紫のふうぞ花(蓮華草)が田の畦を隈どるようになります。

農家では降らねば、申し合わせたように一斉に田畑の仕事に出かけます。

麦のじょれん掛けやせんぜ(屋敷のまわりの畑)の手入れに精を出します。

孫守りの婆さんは花てば(花かご)を持って、田の畦のふつ(よもぎ)・芹摘みに余念がありません。

孫は孫で畦草をあせくり(かきまわす)、竜の目ん玉(竜のひげの濃紺の実)などを探して回ります。


二月半ばの十五日には香ばし(麦こがし)権現さんがやってき支す。

古来、農家ではいろいろの保存食を創り出しました。

春先には、栄養があり、保存が効き、

美味で香ばしい「コーバシ」が登場します。


日溜まりの縁側で婆さんが、炒った裸麦を丹念にひき臼でひきます。

急いてはいけないのです。

「ゴロン、ゴロン」と、日やり(一日中かかって)に臼を回します。

「コーバシ権現サンカ。オメダスナイヤ。新聞紙ノ 切レ端

包デ貰テ シバン葉デ 掬テ 食ベッサルキョーッタナイ」

「子供ン ヨカトリモン ジャッタタイ」。

   

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