暮らしと方言の色揚げ

内山一兄・郷田敏男

 
 
 
 
 
 
 

彼岸


彼岸と言えば、彼岸詣り・彼岸籠り・彼岸花・彼岸桜を思い出します。

「彼岸」は「此岸」の対句で、煩悩を解脱して達する涅槃の境地・悟りの世界を言います。

醜い現世に対して極楽浄土の世界と言ったところでしょうか。


「暑さ寒さも彼岸まで」の譬、文字どおり春の彼岸はうららの春光、

鳥啼き花笑う好季への出発なのです。これに比べて秋の彼岸は、

万物収穫の喜びはあるものの、凋落の暗示、

やがて忍び寄る冷たい冬の兆し、忍従への入り口なのです。

「冬来たりなば 春遠からじ」で、人々は春の彼岸を待ちわびたものです。


今でこそ彼岸の中日は「春分・秋分の日」として国民の祭日に定着していますが、

ただ単に昼夜の時間が等しいという、祭日としての趣旨不充分の休み日です。

庶民は祭事に参加する者がほとんどなく、慰安娯楽の日に成り下がっています。


かつては中日には、老若男女が誘い合って菩提寺に詣り説法に耳を傾けたものです。

耳が遠い老人は、利き耳に手を当てがって説教に聞き入ったものです。

 

   

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