暮らしと方言の色揚げ

内山一兄・郷田敏男

 
 
 
 
 
 
 

川祭り


旧の五月(さつき)になると、もう四囲は初夏の装いです。

麦の穂並みが少し黄味がかり、日増しに熟れかかります。

里から野へ山へと見渡す限りの鮮緑がまぶしいくらいです。

苗代では四、五寸にも伸びた早苗がそよぎ、

ときには小学生が蛾やその卵を採りにきて、

ひとしきり騒いで引き揚げていきます。

夜は蛙の合唱が繰り返されて、誘蛾灯の炎がゆらぎます。

そよぐ涼風、川辺では早い螢がちらほら目につきます。

旧の五月五日には「川祭り」がやってきます。


「川祭リチャ コノ頃 アンマリ センゴツナッタナヤ」

「ソータイ。初手ハ インガット 講中デショーッタバッテ・・・」

「アリャ 家回シデ 寄リ合ウテ 飲ミ食イノ楽シミジャッタタイ」

「ソリカラ 麦殻デ イロイロ作ッタリシテ 大事ジャッタガ・・・」。


麦藁をすぐって(藁の外皮をのぞいて整えて)酒樽や盃にその肴のたこを作ります。

木で鰹節や魚を作り、表面を焦がして黒くします。

作り方は、年季の入った老人からの順送りのものです。

子供たちは、めいめいに呪い文句や自分の望みなどを短冊に認めます。

これらを青笹につるして川面すれすれに土手に突き立てるのです。

そして川にお神酒を注ぎ、馳走をお膳に並べて水神に供えます。

   

八女方言歳時記へ戻る

 

次項→



ページの上段へ PAGE UP