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暮らしと方言の色揚げ内山一兄・郷田敏男 |
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霜月に入りますと、四周の雑木山は薄紅の彩りを添えてきます。
稲ごんのうが一段落しますと、周りの松山ではなば山(茸山)あがりが弾み出すのです。
茸のことを総じてなばと言います。
なば山は松茸山のことで、「なば山あがり」と言えば松茸狩りの意です。
「ソージャッタ。茸ガ ナバデ 楮ナバ 毒ナバテロンイヨーッタナイ」
「筍ガ モーソーデ 真竹テロン 淡竹ノゴタル コマカタケンコハヘーモ チョーッタタイ」
「久シュー 聞カンケ 忘レッシマヨーッタ」。
八女市の北東部を縁どる一帯の丘陵、
すなわち旧忠見村の北側から山内の童男山に連なる一連の丘陵と東部山地は、
かつては自然のたたずまいそのままでした。
今でこそ杉・檜の造林や蜜柑・茶園畑に開墾されていますが、
昔は自然の雑木林・灌木山・孟宗やね(竹林)・まばらな赤松山が続き、
迫にはわずかな山畑が点在していました。
この赤松山では、十一月の初旬から晴れた日にはよくなば山あがりが催されていたのです。
なば山あがりの必携品は、茣蓙・ケット・薬罐・かんつけ徳利・五徳・それにくさぐさの御馳走を詰めた重箱です。
赤松の根元の落葉の下や羊歯の間に、ぽつりぽつり松茸が頭をもたげています。
群生している所もあります。
日当たりのよい緩い斜面に茣蓙を広げ、その上にケットを敷き、
枯れ木を集めて焚火をし、薬罐でかんをつけ、五徳で松茸をさいてあぶるのです。
重箱の馳走を開き、下界を見下ろしての宴がはじまるわけです。
肴は松茸とお重の手料理、これでは酒がいけぬ筈がありません。