![]() |
暮らしと方言の色揚げ内山一兄・郷田敏男 |
|
![]() |
||
梅雨が明けて天気が据わります。
陽が長いので、午後八時になっても西の空が明るい。
昼あがり(昼食のために仕事をやめて家に帰ること)をすると
百姓は三時までぐらいは昼よけ(昼休み)で、
板の間に寝そべって腰伸ばし(からだやすめ)をします。
ですから、夕方のあがりは遅いのです。
空の明るさ加減で仕事をします。
夏祭り(祇園)までには田の草取りの三番草まで終わらねば、一段落しません。
「田ん中ん水の温うして濁っとると、稲のようほこる(生長する)」と言われ、
順ぐり順ぐり田混ぜに寧日がありません。
「サテ ソロソロ・・・」と、
暮れなずむ西の空を眺めてがん爪(除草具)の手をやめます。
夕食が遅い百姓を「夜中だご汁」と言います。
風呂に入って汗を流し、だご汁をかすくりこむ(かきこむ)ころは、
すでに九時をすれて(過ぎて)います。
噴き出る汗をぬぐいながら、渋団扇ときせる(煙管)をつかんで、
子供たちが涼んでいる坪先のばんこに腰をおろすのです。
空が澄んで満天の星、白い帯のようにかすんだ銀河が中天をすじかいに横切っています。
せんぜ(前栽)に続く田圃からは蛙の合唱がかしがましく、
そよ吹くおとし(東風)は心地よいものです。