暮らしと方言の色揚げ

内山一兄・郷田敏男

 
 
 
 
 
 
 

麦播きのころ1


稲の穂がくるぶくころになると水落ちがあります。

「井手干し」とも言います。

用水路の取り水口のさぶた(灌漑用水の水門)を閉めて水田の水を落とすのです。

井手干しの布令が回ると子供たちは歓声をあげます。

水が落ちた溝には雑魚がガチャガチャです。

終日魚取りが楽しめます。

今のように家庭排水の野放図な垂れ流しもありませんから、

通水のころは溝で野菜を洗い米さえしこんで(米をとぐ)いたものです。

水が流れているところには、どこもかしこも小魚の群れが見られました。

そして小魚すくいは、子供にとって何よりの楽しみであったのです。

水が落ちると、それがごっそり取れます。

鮒もどじょうも、どんこ(はぜ科の淡水魚)もさざり(川えび)も、

時によっては大鯰からうなぎさえも・・・。


用水路に沿って、ところどころに泥土を溜める堀があります。

溝を一部広げて、その底を掘り下げ澱みを造るのです。

ここに泥土がいさる(しずむ)仕組みです。

井手が干し上がってもこの堀だけは水が溜まっているので、

逃げ場を失った魚はここに群がってきます。

堀の水を汲み出すと、底の泥をかすくり(かき)出します。

この泥が何よりの自給の有機肥料になるのです。

 

   

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