暮らしと方言の色揚げ

内山一兄・郷田敏男

 
 
 
 
 
 
 

兵児・湯文字祝い


 梅雨に入ってすでに一週間、連日雨もよいで陰うつな天気が続きます。

文字どおり天候不順、雲間から日ざしがもれてパッと明るくなるかと思えば、

急にどしゃ降りに変ったりします。

夏至も間近の陰暦六月(みなづき)の朔日には、

兵児祝い・湯文字祝いがやってきます。男女数えの七歳の祝いです。


小雨模様の昼さがり、訪うたナオさん方の茶の間にはすでに近辺の鶴次郎さんが来て、

お茶を啜りながら屈託のない話が弾んでいます。

ナオさんが作った茶塩気のあちゃら漬けがまた旨いのです。


揃うと、のっけから先日の慰安旅行の話が弾みます。

「○○ガ安カ」「△△ハ 御馳走ン多カ。手土産マデクレラス」

など、旅館の評定に切りがありません。

適当に相槌を打ち、頃合いを見計らって話題を変えます。


「兵児祝イ 湯文字祝インコツァ 覚エトンナサンノ?」

すでに七五年も昔のこと、記憶も定かではないらしい。

しばらく間をおいて、ポツリポツリと記憶の糸をたぐりながら口を切ります。


「一年生ノ時ジャッツロカ? ホンニ 学校ニアガッテ 直グジャッタゴタル。

湯文字祝イバシテ貰テ 風呂ニ行タリャ オッチャン達ノ ソ−ニ

タテガワシャッタコッバ カ−スケ 覚エトリマスバノ」

「アタイダン セカラシカケン 直グ ホンノキョ−ッタタイ。

ヒョコ−ット カクト 何ジャリ セカラシカモン」。

   

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