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暮らしと方言の色揚げ内山一兄・郷田敏男 |
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村の入り口の橋の際で、
まとった着物を脱ぎ捨てて素っ裸になります。
兵児一巻の出で立ちで、腰に注連縄をつけ、
村内に向かってぶーわんげを吹きます。
今から水をかぶって回ると言う、
言ってみれば打ち上げ花火のような合図なのです。
このぶーわんげを聞くと、
家では
「ソーラ 山法師サンノ コラスゾ。水バ汲ンデ デートケ」
と、井川(井戸)から汲んできた水を
たご(手桶)に入れて家の前に据えておくのです。
孫を背負って
どんぶく(子どもを背負うときにひっかける綿入れ羽織)を羽織り、
つんのき(ちゃんちゃんこ・袖なし羽織)をつけた孫の手を引いて
婆さんが外に出て待ちます。
水の準備ができたころ、
近くの家からもれなく汲みおきのたごの水をかぶりはじめます。
何やら呪文めいた言葉をぶつぶつ唱えながら、
水を頭から一気にかぶるのです。
砂利道ですから、つのむすび(わらぞうり)か草鞋をはいています。
水を浴びて回る間に、
あどうち(歩くとき泥をはねあげること)が背中まで跳ね上がります。
「ホンナコッジャン。山法師サンノ キョーラシタナヤ」
「初手ハ ゴゼテロン 弘法サン参ッテロン エゴツネ回ッテ
貰ッサルカス人ン ソーニャ 多カッタナヤ」
寒さでつばいろ(唇の色)もありません。
低くあるいは高く呪文一途、
部落が広いので途中でまた二、三回、
辻で立ち止まってほら貝を吹くのです。
ひとわたり村内の水かぶりが終わりますと、
着物をまとってお布施をもらって回ります。
えごつね(家毎に)湯飲みに冷や酒を出したり、
小餅の二、三個、銭の二、三銭をお盆に載せて差し出したものです。
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