暮らしと方言の色揚げ

内山一兄・郷田敏男

 
 
 
 
 
 
 

かび餅


十四日のさぎっちょ(左義長)の餅焼きごろになると、

餅にひび割れができて包丁の刃が立たなくなるのです。


二十日正月ごろにもなれば、青や桃色など色とりどりのかびが付いてきます。

 正月の餅の食い納め、びっしり付いたかびを包丁でこさいで(削って)焼いて食べるのが、

子供の楽しみでもあったのです。


「カチカチナッテ ヒビ割レシタ カブノ餅バ エーテ 食ブットガ 堪ラジャッタナヤ」

と、古老は声を揃えて懐かしむのです。


「ホンナコッジャーン。オドンゲニャ 子供ン ゾロゾロジャッタケ

昼カランオ茶ニャ シャッチ 餅バエーテ 食ビョーッタガ・・・」


「ソータイ。箱火針ノ周リ ズラーット並ロデナイ」


「餅モ 太コモアルケ 餅ノ太サンコツカラ 直グ 喧嘩ニナッテナイヤ・・・」。


丸餅や角餅ならともかく、大きいお据わりを切ったものなど、

切り方次第では随分太さが違います。


「コリャ オーリガツ」「オドンナ コーリ」と面々に素早く掴むと、

餅の太さのことからすぐいさかいが起こったものです。


よくしたもので、一番年かさの子が大小一個ずつ適当に目分量で分けて、ジャンケンで決めるのです。


固い餅は、外側が少々焦げなければ芯までうまく焼けないものです。


時によっては、てっきゅ(物を焼く金網)の餅の載せ場からさえ悶着が起こることもあります。


これも結局、「イッチガ チ。チクラン ポ。仕方ガ ナイ」

と手を繰って決めたりしたものです。

 

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