暮らしと方言の色揚げ

内山一兄・郷田敏男

 
 
 
 
 
 
 

二月灸


農耕は腰をかがめた重労働です。

農閑期にだりやみの湯治にでも行ければ、まずいいほうです。

たいてい安息日に、凝ったところに伸べ膏薬を貼り、えーとをすえたものです。

六十を越せばすでに「く」の字に曲がった躰を杖で支え、足を引きずる人が多かったのです。

地味な身なり、ささくれた手足、渋紙のような顔と深く刻みこまれた皺、

昔の老人の面影は今の八、九十歳の老人にもその容姿は見られません。


「エートン時ャ 何カ 煎リ米カ アラレンゴタットバ 出ショーッタノヤ」

「アリャ オ茶請ケデハナシ 昔カラ エートスユッ時ャ 熱カケンデ

アゲナ固カモンバ 握ラセテ 堪エサショーッタツ ゲナタイ」。


灸が終わると、煎り米やあられを頬張ってさざめくのです。

この日を中年婦人は「血巡り」とも言います。

後には、老人ばかりでなく初老・壮年・青年・若女衆から子供同士まで寄り集まって、

慰安娯楽の日へと姿を変えていきました。

「えーとの日」という言葉から辛うじてかつての風習が思い出されますが、

その記憶も定かではありません。

 

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