暮らしと方言の色揚げ

内山一兄・郷田敏男

 
 
 
 
 
 
 

水天宮さん2


お宮の下の河川敷にずらりと露店が並びます。

ありとあらゆる店が顔を揃えます。

アセチレン灯の匂に、焼きするめ・回転焼きなど、

いろいろの匂が混じったよど独特の匂が漂います。

ねじ鉢巻きをしたおっつあん(おじさん)のだみ声を、

前垂れのおばさんがかん高いひなおらび(絶叫)で混ぜ返します。

風船のついた笛の音、おもちゃのラッパの響き、

氷水屋が振るリンの音が間奏をかなでます。

この物音やざわめきが、よど独特の賑やかな雰囲気を醸し出すのです。

宵の口で、子供連れの参拝者が最も多い時刻です。

玉砂利を踏んで社前にぬかずくと、ひっきりなしに鈴が鳴り、

賽銭が飛んできます。

回って社務所で、厄除けのお札を受けるのです。

子供は水難除けや安産のお願いよりは夜店のほうに気をとられ、

しきりに母の袖を引っ張ります。

「ホンナコテ 子供ン時ャ オ宮参ッデナシ店参リジャッタケナヤ」

「ドリ見タッチャ 欲シカ物バカッデ 店ン側バ 離レキラジャッタタイ」

「飴ン湯モ 飲モゴタル 遊ンモンモ 買ウテ貰オーゴタッデナイ」

「安カ ニッケ酒テロン 手写シドン 買ウテ貰テ・・・」。


いろいろの見せ物がきます。

よく田舎巡業の芝居の舞台がかかったものです。

お宮の籠り堂を興業主が控え所に借り、諸肌脱いだ役者が化粧をします。

首まで真っ白に白粉をぬたくった女形が、

芝居小屋の裏口から出入りするのを飽かず眺めたものです。

 

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