暮らしと方言の色揚げ

内山一兄・郷田敏男

 
 
 
 
 
 
 

麦秋のころ(1)


裸ごんの(米麦の収穫)は、小麦ごんのより一〇日以上も早いのです。


「アシタハ 裸バ 倒スゾ」と、主が宣言します。

むすで(物を束ねるために穂先を結んだ結いわら)を作ったり、

鎌や砥石などを揃えておきます。


 初夏、日の出が早い。

東の空が白むと起き上がります。

飯をかみかみ鎌を研ぎ、むすでをぼくと(太い棒)の先に突っかけて出かけます。

「早カナイ。モー行キョールカイ」

「涼シカウチ 一畝デン 刈ラント 暑カ盛リニャ 術ナカ(つらか)ケンナイ・・・」

と、会う人毎に挨拶を交わすのです。


ふう包み(ほおかぶり)と姉さんかぶりが、並んで中腰になって刈り進むのです。

カリカリと利鎌の音がリズミカルに響きます。

ときには、麦の間にひばりの巣を見付けることもあります。

草屑を集めた、径三寸ぐらいにつくろった見事な丸い巣です。

「コラコラ ヒバンノスン アッタゾー」と、

つんのうて(連れ立って)きている子供に向かっておらぶ(叫ぶ)のです。

 

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