暮らしと方言の色揚げ

内山一兄・郷田敏男

 
 
 
 
 
 
 

麦秋のころ(2)


運びこんでこづみ(積み)上げている麦の山を、

ひと手ずつ交互に組んで穂先を陽に当てます。

空いている所には、足の踏み場もないほど並べます。

屋敷が狭い家では、往還の両側にまで並べて干すのです。

かたわら、坪先の片隅に麦打ちのぶて(無台)掛けをします。

麦粒が飛び散らぬようにコの字型に三方を筵・茣蓙で囲い、中央に叩き台を据えます。

台の上に厚い板か平たい石を並べるのです。

これが叩き台になるわけです。


最も日ざしの強い午後から、麦打ち作業にかかります。

手どった(刈り倒した稲麦などを束ねた)麦の束を力一杯この台に叩きつけます。

「バシッ」と叩くと、からからに乾いて今にも実がこぼれそうな穂先の実は、「ゾクッ」と落ちるのです。

裏表と四、五回も叩くとほとんど落ちてしまいます。

軽くなった麦殻はポンと後ろのほうへ投げます。

乾している麦をかためて運ぶ者、叩く者、

落とした麦殻を束ねて片付ける者と、分業で仕事をさばきます。

みるみる乾している麦が減っていき、

こづみ上げる麦殻が高くなります。


「麦打ッチャ ノサジャッタナヤ」

「ソータイ。アノ暑カ盛リ カンカン照ンノ時 打タニャンケ 術ナカッタタイ」

「暑カ盛ッデナカラニャ ムゴ落テンモンバ・・・」

「ゴミウチカブッテナイ 鼻ンスン中マデ 真ッ黒ウ ナリョッツロガ・・・」。

ふう包みはしていますが、顔から首、眉毛、まつ毛まで埃が付いて、

しろこ(白粉)をふいたようになるのです。

流れる汗で顔面は縞模様、耳や鼻の中まで黒くなるのです。

 

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